賢であるためには、システムが必要になるのか

リラックス

釈迦逸話に、四門出遊というものがあります。カピラヴァストゥの東西南の門から釈迦が門の外に出ようとすると、老人、病人、死人に出会い、世の無常を考えるようになるというエピソードです。

人生は苦である

釈迦はその後仏陀となり、「人生は苦である」と看破しました。老病死の中に生きることこそ人生であれば、苦であるでしょう。輪廻の苦海から脱して、涅槃の道に入ることしか救いはありません。その道とはどんなものでしょう。

原始仏教では「孤独に歩め悪をなさず求めるところは少なく、林のなかの象のように」という言葉がしっくりくるのではないでしょうか。サンガ(僧)に加わり、共同生活を送り、悟りの道を追求することが、原始仏教の目指した道の実践です。

輪廻の苦海から逃れるためには、灯明に例えられるような、知恵が必要とされます。この知恵において、仏教が中国に伝来した際に、中国出来の宗教である儒教と混合し、「賢」という概念が生まれます。すなわち、賢人とは人生の達人にして達観者、苦の世界である現世において涅槃への道を知っていて実践している人物という設定になったと思われます。

賢人は、隠者でもあります。老子の教えによれば、決して人頭に立たずということが尊ばれる徳のひとつだからです。したがって、真の賢人がどんな人物であるかは、伝説や説話の類に求めるしかないのです。その説話が、苦の世界から救われるため、賢であるためにはどのような行いをすればいいかのハウトゥを示すツールになったのです。

日本における賢の特徴

飛鳥時代に中国から日本に仏教が伝来します。そのときには経典にはすでに賢になるための要素が含まれたものになっていました。特に鎌倉時代には、日本人の心に訴えかけた「無常」の思想が強化され、一般民衆に広まっていきました。阿弥陀仏や弥勒菩薩を信仰する欣求浄土の土台が、すでにできていたともいえるでしょう。

賢の話にもどすと、吉田兼好の「徒然草」85段に行き当たります。

驥を学ぶは驥の類ひ、舜を学ぶは舜の徒なり。偽りても賢を学ばんを、賢といふべし。

ここで言っている賢とは、「知恵者」のレベルなのでしょうか?それとも仏陀の教えが多少なりともブレンドされている灯明の意味なのでしょうか。少々、不安になります。

単に頭の良さや要領の良さを賢と位置付けているのであれば、それは日々変化していく無常の中では役に立つものではないからです。明日、何が起こるかわからない。ひょっとすると死んでしまうかもしれないという現実に、人々は希望という幻想をフル回転させて将来をつくり、生きています。しかし、実際には今日役に立ったことが、明日も通用するかは全く分からないので、いくら賢を誇っても仕方がないことなのです

それでは、日々アップデートされなければ賢ではない、という定義のもとではどうでしょうか。とても面倒なことですよね。人力でやろうとすれば、日々の努力、勉強にコストをつぎ込むことこそ賢ですが、それでは実学から遠ざかってしまうのではないでしょうか。灯明を人に示せてこそ、賢でありましょう。人力では限界があります。であるならば、なにかしら自動的に賢がアップデートされる仕組みが必要になるのでしょう。

システムは賢にはなれない

明日のことをある程度リスクヘッジできる仕組みの代表といえば、保険の仕組みでしょう。保険の見積もりのロジックを、賢のアップデートの保証として利用できれば、そのシステムこそまさに賢であり、無明の世の灯明になり得ると考えられます。

そのようなことは、現在で考えるならば、AIやビッグデータ、ナレッジがなければ難しいです。ましてや、現在でもすでに人間の処理能力を超えた情報の海の中にいるわけですから、そこから最新の賢をピックアップして更新し、人間に理解できるように整理することなどはまだ技術的にも数十年かかる気がしますね。古臭くなりますが、昔のSFに良く出てきた「万能コンピュータ」「マザーコンピュータ」などが、賢人として人々を救いの道に導く世界がくるのでしょうか。

結局のところ、コンピュータが智恵を生み出すことはできないです。シンギュラリティが起こったとしても、すくなくとも人々の心を救うようになれるとは思えません。なぜなら、コンピュータは人生を生きていないのです。無常については理解できるようになるかもしれませんが、予測することと救いの道を示すことは、どう考えても別ものです。

システムが賢でないならば、輪廻の苦しみから人間が救われるには、人間がやり遂げることになります。世界を巻き込んだエネルギー革命などで、世の中の仕組みがすっかり変われば、理想的な世界がやって来るかもしれません。そのためにも、せめて賢であろうとする志を持つことは、人間らしさで賢を追求する唯一の道といえるでしょうね。

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