『謎のチェス指し人形「ターク」』のミステリアスな魅力

ホビー

HONZで紹介されていた『謎のチェス指し人形「ターク」』(トム・スタンデージ、NTT出版)が気になって、読んでみました。なにしろ、「謎の」ってタイトルに入れてしまうくらいですから、これは魅力を感じますよね。

装丁もいいです。表紙に描かれている銅版画の人形が、本当にチェスを指す自動人形であるならば、18世紀にどのような仕組みを使って実現したのか、知りたくなるというものです。

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「ターク」の誕生

18世紀のオーストリア=ハンガリー帝国。女帝マリア・テレジアの時代は、帝国が繁栄を極めた時代でもありました。その宮廷では、女王の無聊を慰めるために社交界や催しものなどが開かれていました。現代人が想像するような、「華の宮廷」生活が行われていたと言えるでしょう。

ヴォルフガング・フォン・ケンペレンは、帝国の上級官吏でした。法律や哲学を学び、父の後を継いで宮廷に仕えはじめると、彼の優れた頭脳は退屈な宮廷の仕事以上のものを欲するようになります。独学で物理学や機械について学んだ末、ついに自動人形(オートマトン)を作ることを思いつきます。

女帝マリア・テレジアに披露されたのは、トルコ風の衣装を着けた、チェスを指す自動人形です。据え付けのキャビネット中には、歯車やゼンマイなどがあり、扉を開くことによって、覗き込めるようになっています。名前は継いていませんでしたが、トルコ風の風貌から「ターク」、トルコ人と名付けられたこの人形は、見事に対人チェスを指してみせたのです。

また、決まりきったチェスを指すだけではなく、対戦相手の不正な駒の動きを制止したり、「ナイトのツアー」という、人間でもなかなか難しい問題を解くこともやってのけました。

ケンペレンのタークは評判を呼びましたが、ケンペレン自身はタークにはさほど執着を見せませんでした。しかし、マリア・テレジアの後継者、ヨーゼフ2世が後押しをして、タークはヨーロッパ中を興行して廻ることになりました。

数々の有名人がタークの機構を推理する

多くの有名人が、タークと出会っています。政治家ベンジャミン・フランクリン、作家のサミュエル・ジョンソン、自動織機を発明したカートライト、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルト、数学者チャールズ・バベッジ、そして作家エドガー・アラン・ポー

ケンペレンが引退した後、タークはメルチェルという興行師の手に渡り、ヨーロッパや新大陸でチェスの興行をして廻ります。多くの人がタークを見て話題になりました。面白いことに、各国でタークに対する人々の対応が違うというのです。フランスでは、タークを褒め称える、面白いものを見て喜ぶという見かたが主流です。イギリス人は、なんとかしてタークの内部構造を知りたいと考えます。アメリカ人は、タークと同じような自動人形を作って、独自に興行を始めました。このあたりは、気質の違いなのでしょうね。

メルチェルの死後、タークは博物館に展示されますが、1854年の火災で失われてしまいました。多くの人を巻き込んだ、「チェスを自在に指す自動人形」という夢は、結局、内部の構造を完全に明らかにすることはなく、消失しました

このモヤモヤとする感じが、長い間、自動人形というロマンを人々に思い起こさせるものとなったのです。この本の作者も、そんな人々の一人だと思いますし、その本を手にとった自分も惹きつけられているわけです。

オートマトンというロマン

最終的に、タークの秘密は明かされていますが、ここでは触れません。しかし、その巧妙な仕組みは当時の人々には驚くべきものであり、長く語り継がれるに値するインパクトをもっているのです。

現代のコンピュータは、チェスや将棋、碁などのゲームにおいて、すでに人間を打ち負かしています。過去の棋譜からの機械学習での蓄積や、何手も先を読む集中力が衰えないことなど、人間よりも有利な点が多いのでしょう。中にはオリジナルな手を考えて打ってくるものも現れています。

しかし、そこに感じる「すごいな」という感覚と、タークに感じる驚異とは別物のようです。確かに、プログラムのアルゴリズムに凄みを感じることはあります。しかし、タークにあるロマンは、プログラムにはありません。『イノセンス』というアニメーション映画では、人間と人形の違いはどこにあるかを追求した内容になっていますが、タークにはそのようなテーマ性を感じるのです。人間と機械の境目というものが隠し味となって、ロマンチズムを刺激するのだと思います。

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