『美亜へ贈る真珠』愛と時間が人生を決定づけた物語

ホビー

美亜へ贈る真珠』(早川書房)は、SF作家の梶尾真治さんの傑作短編集で、ロマンチックな短編が集められています。そのなかでも、表題になっている『美亜へ贈る真珠』は、作者のデビュー作でもあり、SFマガジンに発表されたときからスタンダードな作品とされた美しい物語です。

このようなSF短編が、1970年代にすでに発表されていたのですね。今読んでも、古いと感じるところはほとんどありません。むしろ、時代を正確に先読みしたような描写があって、ハッとします。作者の鋭敏な感覚と、読みやすい文章が傑作として結晶しているようでもあります。

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収録されている作品の所感

梶尾真治さんは短編の名手ということで、この短編集にも7編が収録されています。そのなかでも特に気に入った作品に3編ついて、管理人の感想を述べていきたいと思います。

美亜へ贈る真珠

愛は時間を超越できるのか」というテーマで書かれているSF小説です。ある装置の前にやって来ては、じっと佇んでいる美しい女性。彼女はその装置を見ることを楽しみにしているのではありません。ある愛の問題についての答えを探しに来ているのです。いくら眺めていても、その装置からは、彼女の問いに対する答えは見つからりません。そこには、時間という、人間の超えがたいものが横たわっていて、手を伸ばしても彼女の欲する答えに届かないのです。

しかし、最後には作者からの結論が提示されています。そこにたどり着くまで、長い時間がかかりました。真珠が貝の中でゆっくりと成長していくように、その結論に込められた時間と愛は、この小説を読んだ人に強い印象を与えます。

時間に関する同じようなシチュエーションとして、フェルディナント・フォン・シーラッハの『犯罪』に収録されている、ある美術館警備員の話が思い出されました。現代人の精神に対して、時間や変化というものがどのように作用するか考えさせられます。

梨湖という虚像

こちらの短編はよりSF色の強い設定になっていますが、もし現代の日常に置き換えてもなんら違和感がないものです。登場人物の名前が「梨湖」とか「進」という日本人の名前になっているのも、親近感を感じさせるものといえそうです。

とある切っ掛けにより、失った恋人を「再生」させる物語です。その再生の方法は、この作品が発表された当時では、まったくSF的なアイデアだったのでしょう。現代では、この作品に登場するようなことが現実にありえるようになってきています。このことも、現実感を高めているのでしょう。

恋人を再生するに至る動機は、やはり愛です。執着といっても良いかもしれません。そのことには登場人物も気付いており、最後には失った愛までを無限の時間の中に再生しようと試みるのです。

この作品は1979年に発表されています。ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』が1984年ですから、同じようなテクノロジーを駆使したSFとしては先駆けています。

読みやすい文章なのであまり気付きませんが、SF物語を紡ぐ細かい設定がよく出来ていると感心しました。

時尼に関する覚え書

タイトルを見たときには、八百比丘尼伝説のような話なのかなと思いました。作者もそれにインスピレーションを受けているのかもしれませんが、物語はとてもオリジナリティにあふれていて、しかも美しいのです。

文庫版の煽りでは「時間を超越して男女が運命的な出会いを果たす」となっています。まさに、運命の物語と言えるでしょう。無償の愛を授けてくれた存在が、徐々に愛を与える相手に逆転していく様子は、定まった運命だと思います。SF的な説明は少々、強引な感じも受けますが、時間という流れのなかで、いかに運命をまっとうできるかを追求した愛のあり方なのでしょう。

覚え書きというものの意味が、最後に分かるようになっています。愛しているのに同じ時間を生きられない、そんな切ない関係を結びつける絆が覚え書きなのです。このようなストーリーはさぞかし女性受けするだろうなとも思います。

人間の行動というものが、スマホなどのデバイスで一切を記録できるようになり、巨大なネットのどこかにトラッカーされていたら、より精密な覚え書きも現実に存在しえるのかもしれません。しかし、そこには自分の想いは記録されていません。美しい物語を紡ぐためには、もう少し時間がかかりそうですね。


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