『魔王』、黒幕と呼ばれたプログラマのダークサイドを暴く

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「魔王」奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男』(エヴァン・ラトリフ、早川書房)を一通り読み終えたので、ネタバレありで感想を書いていきます。本書は、タイトルが凄そうで出落ちのような気もしますけども、中身もなかなかしっかりとエンターティンメントしたものでした。映画化されると言う話も納得です。

実際のところ、プログラマって犯罪帝国を築くようなことは、あまり興味なさそうなイメージってありませんか?なんとなく、コンピュータの世界に没入しているテクノロジーオタクなのではないか、と。しかし、プログラミングの腕を活かし、実世界の犯罪にも手を染めることになった男がいたのです。しかもその発想は斬新でした。

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アフリカ生まれのプログラマがなぜ悪に走ったのか

黒幕(マスターマインド)の名前は、ポール・ル・ルー。アフリカのジンバブエに生まれた白人でした。彼の母親は17歳で彼を生み、すぐに養子に出されます。初めから陰のある宿命を背負っていたのかもしれません。

里親は彼を溺愛しました。ル・ルーは、わがままではありませんが、どことなくひねた性格に育ちます。周りの同年代の少年少女が外を跳びまわって遊んでいる時期に、彼は家で孤独に遊ぶことを好んでいました。やがて、コンピュータというものを知り、そのテクノロジーに夢中になります。その情熱は、ハッカー文化と結びついていきます。

彼を虜にしたのは、暗号でした。天才的なプログラミングの腕で「E4M」という、暗号化ソフトウェアを作りあげます。しかし、オープンソースで公開したため、このプログラムが彼に利益をもたらすことは有りませんでした。その不満も募っていたのでしょう。雇われプログラマとして仕事をしていく中で、雇い主の富裕な生活スタイルを見て羨ましく思い、やがて金持ちに猛烈に憧れるようになるのです。このあたりから、プログラミングの才能、ネットに関する豊富な知識を使って、犯罪に手を染めるようになっていきます。

サイバーの世界から徐々に現実にはみ出していく欲望

ル・ルーは、ネットを使った薬の販売サイトを立ち上げました。扱っている薬は、当時のアメリカでは、一応、規制対象外でした。しかし使用法によってはトリップできたり、依存症が出るなどの危険性のある鎮痛剤が中心でした。処方箋を出す医者と、薬を調合して販売する薬剤師をネット上で結びつけ、正規のルートを通って処方されたかのように薬を販売しました。実際には、医者は機械的に処方箋を発行し、量や利用法などのリスクには気づかないシステムです。つまり、ネットで注文した客は、ほとんど医療的なチェック無しで、好きな量の鎮痛剤を手に入れることができたのです。

ル・ルーは同様のサイトを大量に公開し、顧客を増やしていきます。RX社という、ほぼ実態のない会社をフィリピンに立ち上げ、コールセンターはイスラエルなどに置きました。莫大な利益は、香港で資金洗浄され、金やダイヤモンドなどに置き換わっていきました。月に300万ドルの売上があったというのですから、大したものです。そして、ネット上の機密情報は、ル・ルー自身が作った暗号化ソフトにより、絶対に外に漏れ出さないようになっていました。

ル・ルーが行っていたネットの事業は、完全一体垂直型ビジネスと呼ばれるものです。すべてのことを、彼ひとりで管理していました。薬販売サイトのドメイン登録も、登録情報が漏れないように、彼がフィリピンに設立したドメイン登録会社を使っています。また、金で雇われたジンバブエ人の名義でペーパーカンパニーを幾社も設立し、ネットで吸い上げられた資金はすべてその会社経由で複雑な道をたどり、ル・ルーの元に届きました。彼の知能は、狡猾なサイバー犯罪帝国というものを生み出したのです。

やがて、身辺警護などの必要から傭兵を雇う会社も設立され、サイバー世界から現実の世界へ、暴力的な行動がはみ出していくようになっていきます。

奇天烈な発想と行動力、最後も意外な行動に出る

ル・ルーは、豊富な資金力を背景に、いろいろな事業に手を染め始めます。ジンバブエの木材伐採事業、ソマリアのマグロ漁などがそうです。ソマリアに目をつけたのは、そこがほぼ無政府状態の国だったからだと言います。ソマリアは部族の軍閥が跋扈し、治安が極めて悪い国です。国連も避けて通るような地域に、傭兵を派遣しマグロ漁をしようというのですから、なかなか発想がぶっ飛んでいますね。

不動産や、ヨットなどにも多くの資金が投入されます。マネーロンダリングで得た金塊を隠し持っておくための隠れ蓑にもなりました。現実世界にはみ出していくに従って、ル・ルーの組織は歪みはじめ、コントロールできなくなっていきます。なによりも、彼の欲望が暴走し始め、ついには、アフリカのとある島国を傭兵を使って乗っ取るとか、女を集めて自分の子供を産ませ、王国を築くのだかという、妄想じみた計画も走り始めました。脅迫や殺人などの暴力も頻繁に使われるようになっていきます。

最終的に、アメリカの麻薬取締局のおとり捜査によりル・ルーは逮捕されます。アメリカに移送される飛行機の中で、彼は司法取引を申し出ます。殺人などの実行犯である、彼の手下どもを売ることにしたのです。法廷では、彼は自分の罪を認め、関与した事件について証言する側に立ちました。その光景は、実に奇妙に見えたでしょう。黒幕その人が、自分の犯罪を暴いているのですから。

ポール・ル・ルーの犯罪王国は、あっけなく瓦解しましたが、その巧緻な仕組み、国際的で広範な犯罪の実態は、実に複雑なものでした。当局が全貌を明らかにできなかったため、なかなか手が出せなかったのです。ル・ルーは、プログラマとしての才能はもとより、雑多な物事をひとつに結びつける能力において相当な手腕をもっていたと言えるでしょう。その行動力にも目を見張るものがあります。金儲けがしたいということから、ここまで大胆な行動が出来る人物もいるのだなと、素直に感心してしまいます。

彼が逮捕されなかったら、どこまでも野望が膨張していたのだろうか、という興味も出てきます。間違いなくどこかで破綻はしていたでしょうが、北朝鮮やコロンビアの麻薬カルテルとも結びついていたというのですから、さらに大きな犯罪帝国を築いていた可能性もあります。しかし犯罪帝国の黒幕は、過去の孤独な独裁者のように、周囲の誰も信じられなくなり、疑心暗鬼に苛まれて破滅へと突き進んでいくのだと思われます。


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