ク・リトル・リトル神話体系を日本に紹介した荒俣宏先生の怪談集と聞いて、ぜひ読んでみたくなりました。『アメリカ怪談集』(荒俣宏編、河出文庫)を手にとったので、紹介してみたいと思います。1985年に刊行された本の新装版です。
アメリカという国は、1776年に独立十三州の合衆国として建国されました。約240年しか経っていない、若い国家です。移民の国ですから、ヨーロッパやアフリカ、その他の国々の伝統がごちゃっと持ち込まれ複雑な様相を示しています。資本主義という強力なイデオロギーの元、多民族が生活している国家なのです。
その歴史の浅さのわりには暗い部分が多いのは、そのような移民たちが各国から持ち込んだ、伝統の闇の部分なのかもしれません。荒俣先生の『帝都物語』に似ているような気がします。明治維新で新しい国家となった日本ですが、明治から昭和初期にかけての時代は、江戸時代から綿々と続いてきた闇がまだ生き残っていた時代です。新しい世の中と古い迷信が入り混じり共存していた、稀有な世代だったと思います。
『アメリカ怪談集』収録作品の紹介
忌まれた家/H.P.ラブクラフト
ロードアイランド州プロヴィデンスの街に、古びた一軒の空き家がありました。この家を建てて住んでいたハリス夫妻の子供たちが次々と衰弱死していきます。そして、使用人たち、ついには夫妻も謎の症状で死んでいきました。その後も、この家の住人があまりにも死に続けるために、いつからか住む者もなく空き家となったのです。私と、その家の悲惨な歴史をよく知る私の叔父は、その悪臭ただよう忌むべき家の秘密を探ろうとし、とある日の晩に、地下室で一夜を過ごそうとします。そこで起こった恐怖の出来事とは…
さすがにラブクラフトだなという感じの短編です。恐怖の質が、日本のジメジメした感じと違うのが、アメリカン・ゴシックホラーの味わいではないでしょうか。
黒い恐怖/ヘンリー・S・ホワイトヘッド
ブードゥー教の影響が強く残る、西インド諸島のサンタ・クルズ島。黒人の女がひとり、朝から私の家の前で泣き叫んでいます。よくよく話を聞いてみると、彼女の息子のことで嘆き悲しんでいたのです。彼女の息子は、富裕な商人の娘と恋仲になり、結婚しようとしていました。ところが、娘の父親から猛烈な反対をうけます。娘の父親は、彼を亡き者にしようとし、呪術師パパロワに呪いをかけることを依頼したのです。呪いの人形によって、息子の命が今日の昼までしかないことを知った母親は悲嘆していたのでした。この呪いを解くにはどうすればいいのか、私は知り合いのリチャードスン神父に相談にいくのですが…
作者は西インド諸島のブードゥーなどの神秘主義に魅せられ、怪奇小説を多く残しています。植民地の支配階級の白人と、現地の黒人の描写の対比は、「地獄の黙示録」を彷彿とさせます。
悪魔に首を賭けるな/エドガー・アラン・ポー
「教訓のある話」と副題があるように、寓話に近い短編です。私の友人、トービー・ダミットは、事あるごとに「悪魔に首を賭けてもいい」と言い放つ癖をもっていました。そのことを他人から咎められても、彼は全く気に留めなかったのです。ある日、私とトービーが一緒に歩いていて、通り道にある屋根のある暗い橋の上を渡ることになったとき、その橋の木戸の上を跳び越えることが出来るかどうかの話になります。トービーは、いつもどおり「悪魔に首を賭けてもいい」と言い、木戸を跳び越えようとしますが…
ポーの短編を読むことができて、面白かったです。やはり、ポーの味わいというか、ブラックユーモアにあふれている作品です。訳が良いのでしょうね。
ほほえむ人びと/レイ・ブラッドベリ
グレッピン氏は、愛するアリス・ジェーンとの結婚をしようと思っていました。しかし、彼女を家に迎えるためには、同居しているローズ叔母さん一家が邪魔だったのです。彼らを家から追い出さなくてはならない。しかし、ローズ叔母さんはこちらの言うことには耳を貸さず、結婚についても反対の意見しか口にしません。叔母さんの夫や子どもたちも、皆その尻馬に乗ってグレッピン氏に文句を言うのです。しかしそれも2週間前からガラリと変わりました。グレッピン氏が何を言っても、彼らはほほえんでくれるようになりました。そう、2週間前から…
ブラッドベリはSF作家だと思っていたので、怪奇小説を書いていたのは意外でした。平易な文章が、怖さを引き立てているように思います。
アメリカの怪談もなかなかのものです。ホラー映画のようにゴアゴアした感じばかりではないと感心しました。
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