権力者の健康状態は常に大きな問題である

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安倍総理が潰瘍性大腸炎で辞任する意向を公表しましたが、権力の中枢にある人間にとっては、健康というものは常に大きな問題をかかえています。その権力が、国家に匹敵するものであれば国レベルの問題だし、グローバル企業であれば、国家レベル以上の影響力があるかもしれません。

『主治医だけが知る権力者』(タニア・クラスニアンスキ、原書房)には、ヒトラーから毛沢東に至るまでの権力者と、その主治医の関係が記されています。主治医とは、患者と密接な関係にあることから、デリケートな問題に巻き込まれやすいのです。その患者が権力者であれば、権力の闇に関係せざる得ない立場になり、非常にリスキーなのです。

主治医だけが知る権力者: 病、ストレス、薬物依存と権力の闇
主治医だけが知る権力者: 病、ストレス、薬物依存と権力の闇

アドルフ・ヒトラー

テオドール・モレルはアドルフ・ヒトラーの主治医で「帝国注射マイスター」の異名を持つ、薬物注射の権威として知られました。しかし、その実態は、うつ症状や疲労回復のために薬物に手を出したヒトラーの注射器、麻薬売人という一面もありました。ヒトラーは医者にかかることを嫌いました。しかし、モレルにだけは診察させていました。上記の理由のため、ヒトラーにはモレルが必要だったのです。

モレルは医者に見えないような不潔な格好をしていました。そして医療に対する情熱よりも、権力欲や金銭欲のほうが旺盛だったようです。モレルはヒトラーの医師団による薬物過剰摂取という抗議を無視して、ヒトラーに限界量ギリギリまで薬物を注射することをためらいませんでした。モレルの性格にもよりますが、それだけヒトラーが溌剌と仕事をしていられる時間を欲したのです。

結果として、ヒトラーは後年、薬物中毒になりました。どんよりした目、曲がった背中、実年齢よりも老けた容貌と、薬物中毒患者の特徴を晒していました。にもかかわらず、ヒトラーはオピオイド(スピードボール)という薬物を摂取しつづけました。健康阻害によって権力が剥奪されるのを恐れたためでもあります。モレルのような薬物注射をためらわない医師が身近にいると、結局は薬禍の底へ落ちるのです。

ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ

1963年11月22日、テキサス州ダラスで暗殺されたアメリカ大統領ケネディも強い薬物依存体質を持っていました。子供のころから病弱で、つねに大病と戦っていたケネディは、医者に薬物を投与されるのになれていました。その延長から、向精神薬に手を出して、つねに自分を最高の状態にしておきたかったのです。それは、自分の健康に対する一種の自信のなさの表れでもあるのではないでしょうか。

ケネディの主治医は、マックス・ジェイコブソンというドイツ系のアメリカ人医師です。彼は「ドクター・フィールグッド」「ミラクルマックス」という異名があります。元気のない患者が彼のクリニックに行き、注射を打つととたんにスーパーマンにでもなったような気分になれたのです。彼が注射したのはアンフェタミンでした。1960年代には、まだ規制がなかったのです。

ジェイコブソンの評判を効いたケネディは「お忍び」で彼のクリニックを訪れます。その日から、ジェイコブソンはケネディの隠れた主治医になり、外遊の際にも非公式で同行するようになります。この関係は、ヒトラーとモレルに非常に酷似していますが、一つ違いのは、ジェイコブソンはケネディから報酬をもらっていなかったことです。ある意味、医師としての献身的な側面があり、また別の側面ではケネディを中心とする権力構造に巻き込まれたという事情があるようです。

ヨシフ・スターリン

ソビエトの独裁者スターリンは、パラノイア(妄想性パーソナリティ障害)を持っていました。スターリン独裁時代に50万人以上を粛清していますが、そのおもな原因になったのはパラノイアだったと言われます。このパラノイアは、スターリンの主治医団によると、脳腫瘍が原因であるという説もありますが、正しいことは分かっていません。なぜなら、スターリンは主治医を片っ端から粛清してしまったからです。

スターリンは1953年3月5日に死亡しましたが、その4日前にはスターリンが意識不明で倒れていることが後の証言で分かっています。スターリンは寝ている間に起こされることを嫌い、彼が寝室から自分で出てこないことには、周囲の人間は何もできないことを徹底していたのです。そのルールを破れば粛清対象になりますから、意識不明になって尿を漏らして倒れているスターリンを積極的に助けようとする人間はいなかったのです。

人間不信になり最後は孤独になって死亡したという、独裁者の最たる例であると思われます。権力を握った人間は、多かれ少なかれ、権力を奪われるという妄想に掻き立てられるものだと思いますが、あまりに強大な権力は人間性を損なうのだという、寓意を体現してくれたのがスターリンです。それだけ、健康というものは独裁者にとっては致命的になるシークレットであり、公すぎて、決して外国に知られてはいけないものと定義されていたのでしょう。

その点からすると、安倍総理が自分で病気を公表し、辞任するのは真っ当であり、いままでの権力者の轍を踏まないということからすると正常すぎて拍子抜けするくらいのことであると思われます。


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